女性アスリートと月経 ~第1回ウェブコラム~
2012年11月3日 横浜にて日本臨床スポーツ医学会学術集会が行われました。1日目の一般演題で、JECIEの委員でもある能瀬さやか先生が登壇し「女性トップアスリートにおける、無月経と疲労骨折についての検討」「女性トップアスリートの低用量ピル使用状況」の2テーマについて発表しました。
●無月経が疲労骨折につながる…
「女性トップアスリートにおける、無月経と疲労骨折についての検討」
能瀬先生が国立スポーツ科学センター(JISS)で、トップアスリート(オリンピック選手、各競技の強化指定選手683名)を対象に女性アスリートの三主徴(無月経、疲労骨折、摂食障害)に関する調査を行いました。この結果、無月経のアスリートは7.8%であり、月経不順をあわせると全体の約40%に月経周期の異常が見られ、特に、体操、新体操、フィギュアスケートのような審美系競技や陸上長距離で無月経が多いことが明らかとなりました。また、疲労骨折の発症率は11.7%で中足骨に最も多く、疲労骨折と無月経での検討では、無月経のアスリートで疲労骨折が優位に高い結果となりました。無月経による低エストロゲン状態が長期に続いた場合、骨密度の低下が起こります。アスリートの場合、この状態で強度の運動負荷が加わることにより、疲労骨折のリスクが高まります。今後、アスリートやスタッフに対し婦人科的問題についての教育・啓発活動を10代から行っていく必要がある、という内容の発表でした。
●低いLEP使用率…
「女性トップアスリートの低用量ピル使用状況」
これまで本邦の女性トップアスリートを対象とした、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合剤(=低用量ピル。以下「LEP」)使用状況の調査はありませんでした。そこで、JISSでメディカルチェックを行ったトップアスリート683名で調査を行った結果、LEP使用率は2.0%でした。
治療を必要とする月経困難症のあるアスリート161名中(23.6%)、LEPの使用率は3.4%であり、93.2%のアスリートが鎮痛剤を使用していました。
また、月経前症候群のアスリート443名中(64.9%)、LEP使用率は0.5%でした。月経周期によるコンディションの変化を自覚しているアスリートは573名(83.9%)であり、このうち試合に合わせた月経移動を希望する又は経験者は33.7%でしたが、LEPを用いて継続的に月経コントロールを行っているトップアスリートは0.3%、という結果となりました。
●アスリートへの啓発と、受診環境の整備が必要
2件の演題は、これまで本格的な調査がなかった女性アスリートの実態を把握するうえで、とても有意義な発表となりました。
特に2題目のLEP使用率については、アスリートからの潜在的な需要はあるものの実際の使用率は低い、という結果となりました。
LEP使用や、婦人科の受診を阻害する要因として、「アスリートが受け取る情報の不足」と「安心してできる受診環境の整備」などが挙げられます。それを解決するには、アスリートだけでなく、コーチ、トレーナー等を含めたスタッフへの教育・啓発活動を行うことで正しい情報を提供し、女性スポーツ界全体の理解を得ることが必要です。
また、啓発だけでなく、受診環境とその導線の整備も必要です。女性アスリートは全国にいますが、ドーピングやコンディション対応などスポーツ医学に対応できる産婦人科となると、限られています。全国各地に、そうした要望に対応できる拠点があると、アクセス性が圧倒的に向上し、物理的な阻害要因も小さくなります。
女性アスリートのための、情報と受診環境のネットワークづくりが、女性アスリートのQOLの向上、ひいては女子競技力の向上につながります。
(文責:JECIE)